本展では、洋画家・中村研一の、生涯におけるさまざまな 往 き 来 に注目しました。
本ページでは各章から1作品ずつ、作品にまつわるエピソードをご紹介します。
※掲載されている作品はいずれも小金井市立はけの森美術館の所蔵作品です。

パリから帰国した翌年1929年に結婚した中村は、新婚生活をこの代々木宅でスタートさせています。《室内図(居室兼茶ノ間兼画室兼書斎図)》は、結婚後一年たったころの暮らしの様子を描いたものです。
結婚のお相手は海軍少将中村正奇氏の長女・富子さん。奇しくも同姓ですが親戚ではなく、帰国後程なくの、お見合いでの出会いです。結婚は非常にうまくいっていたようで、《室内図》にはあちらこちらに「富子」を描いた作品が。さらには“研一”と“富子”の相合傘まで書き込んであるので、探してみてください。


なお、代々木宅は結婚後に増築が行われたようで、二階にもアトリエができました。この二階アトリエは、サンルームも付いた明るい場所だったようです。
《婦人像》は制作年不詳なものの特徴的な床材からこの二階アトリエで制作されたものとうかがえる一作。日向ぼっこしつつ、デッキチェアでまどろむのは容貌から富子夫人でしょう。日差しは暖かくてもまだ春は浅いのでしょう、ピンク色のワンピースにはベストを重ねて、デッキチェアの背もたれにはカバーがついています。


一方、当人は疎開先での暮らしをいくつかの作品に描き留めています。そうした作品の一つ、《編物》にはタイトル通り編み物をする女性―おそらく富子夫人でしょう―が描かれています。背後にはよく見るとラジオらしきものがあります。中村は、このラジオで終戦を知ったのでしょうか。

船の上で描かれた、船乗りの肖像画―本作を見たら、きっと「なるほど」と思うでしょう。ということで、最後の一作は会場でのお楽しみ。ぜひとも実物をご覧になってみてください。